なりやまあやぐ

5か月ぶりの更新です。
せっかく読者になってくださった方も、さぞや呆れていることでしょう(苦笑)
長い間失礼をいたしました。
悪化していた左手小指の腱鞘炎もようやく落ち着き、10月から三線の練習ができるようになりました。“三線生活”再開です。(まだ早弾き禁止ですが)

何もしないでいるうちに気が付けばもう11月。来週の12日はコンクールです(大汗)
10月の初めに私の課題曲が決まったとの連絡がありました。
「なりやまあやぐ」です。

「なりやまあやぐ」について

妻が夫を諭す教訓歌として、もっとも知られている宮古民謡の名曲の一つですね。
『琉球列島 島唄紀行』によると、なりやまあやぐの発祥地は宮古島は城辺町の砂川、友利方面だと伝えられているそうです。
「なりやま」「すぅみやま」とは、なれ親しい間柄の所。いかになれ親しい間柄であっても節度をもって接しなさい、いかなるときでも気を緩めないで、等と歌っています。

もっとも知られている宮古民謡の一つ、と申し上げましたが、宮古民謡を始めて最初に取り組むのが、この「なりやまあやぐ」か「豊年の歌」ではないでしょうか?
コンクール課題曲としても定番になっています。民謡団体によっては、新人賞の課題曲としているところも少なくないようですね。
しかし、私が所属する「宮古民謡保存会」では、「なりやまあやぐ」は優秀賞の課題曲の一つになっています。

■宮古民謡保存会 優秀賞課題曲

  • なりやまあやぐ
  • 池間の主
  • 長山底

さらに言いますと、この「なりやまあやぐ」は宮古民謡保存会の教師試験の課題曲(必須)でもあるんですね。これと、早弾き曲が1曲抽選で選ばれます。
優秀賞レベルで到達すべき「なりやまあやぐ」と、教師レベルが歌えなくてはいけない「なりやまあやぐ」は次元が異なるということでしょうか。
まぁ確かに、歌い込むほどに難しさが増してきて、蟻地獄に嵌まっていくようです(苦笑)

「なりやまあやぐ」に限らず、どの楽曲でもそうですが、到達したかと思っても、そこに立ってみるとまだその先があって、ようやく辿り着いたかと思ってもゴールではない、、、その連続です。
歌の世界の奥の深さを教えてくれる楽曲が「なりやまあやぐ」なのかもしれません。

「なりやまあやぐ」の歌詞

一、サーなりやまや なりてぃぬなりやま
すうみやまや すうみてぃぬ すうみやま
イラユマーン サーヤヌ すうみてぃぬ すうみやま

訳)なりやまとは 馴れているからなりやまです
すぅみやまとはお互いに心が染め合うからすぅみやまです

二、サーなりやまむみゃいすてぃ なりぶりさまずな主
すぅみやまむみゃいすてぃ すぅみぶりさまずな主
イラユマーン サーヤヌ すぅみぶりさまずな主

訳)お互いに馴れあって居てもなれなれしくては困るぞ
お互いに心が染め合っても心に隙間があっては困るぞ

三、サー馬(ぬま)ん乗(ぬ)らば たずなゆ許すな主
美童家(みやらびや)いき 心(くくる)許すな主
イラユマーン サーヤヌ 心(くくる)許すな主

訳)いかにおとなしい馬に乗っていても手綱を緩めてはいけないよ
好きな彼女のもとへ行っても決して気を緩めるな

四、サーぶり押(ゆ)し波(なむ)や 笑(あま)いどぅ押(ゆ)しず
吾彼女(ばんぶなりゃ) 笑(あま)いどぅ迎(んか)い
イラユマーン サーヤヌ 笑(あま)いどぅ迎(んか)い

訳)気持ちよさそうに打ち寄せる波ほど恐いものはないぞ
笑って迎える彼女にも心を緩めるな

(歌詞・訳:国吉源次流 工工四より)

四番の歌詞がきてますね。
笑って迎える彼女、、でも目だけが笑っていない様子が想像できます。女性の凄味というか怖ろしさまで感じてしまいます。考えすぎでしょーか(笑)

上に書いたのは私が習っている「宮古民謡保存会(国吉源次流)」の工工四に掲載されているものです。民謡団体によっては馬=女性と訳していたり、歌詞の細かな部分や訳が異なっていると思いますが、大意は同じだと思います。

私の師匠の松山雅一先生によると、宮古民謡の団体の中でも宮古民謡保存会の工工四は独特だそうで、歌い方等も他団体から見ると“異端”に映っているのだとか。
確かに、youtubeなどで聴く宮古民謡とはやや異なる部分があるなぁと思います。
この背景として、宮古民謡保存会を主宰する国吉源次先生が、御祖母様の歌っていた歌を基本にしてきたということがあるようです。耳だけでインプットしたもので宮古民謡を広めてきたということなのでしょう。
我が道を行き切り開いてきた国吉源次先生ならではの“国吉源次流”なのですね。

因みに冒頭の写真の工工四がコピーなのは、国吉源次流の工工四が増刷されていないためで、悲しいことに私はコピーしか持っていないのです(涙)

「なりやまあやぐ」には元歌が

『琉球列島 島唄紀行〈第2集〉』によると、「なりやまあやぐ」には古くから歌い継がれてきた元歌があると記されています。
一番だけ参照してみますね。

一、馬ん乗らば 手綱うゆるすな主
女が母屋行き 心ゆるすな主
すさんどぅや 女が母ん叱んしらりな主

〈囃子〉私が主人ソマリゃい耳たみ聞かまち
我が妻カナシャい肝落ちてぃ聞きぅんな
マガうぬ痛む足(からばす)
ヤイティ持上るアガんばぁ
インキシガッあ(インキシカタパあ)

訳)乗馬の際は手綱をゆるめてはなりませんよ、あなた。妻の実家に行ったら、心をゆるしてはなりません。気をつけなさい。妻の母から叱られないように。
〈囃子〉私のいとしい夫よ、よく耳を傾けて聞きなさい。私のいとしい妻よ、心にとどめて聞いているかい。そちらの素足をヨイショと持ち上げ、股間を見せよ。いやです、いけ好かない、あんたって。

(中曽根幸市 編著「琉球列島 島うた紀行〈第2集〉」より)

こんな感じで続くのですが男女のやりとりが生な言葉で表現されています。現在の「なりやまあやぐ」の歌詞に通じる部分が多いですが、かなり直球ですね。
もともとが楽器を使わない歌で「工工四にのせにくく、少し露骨(卑猥)で人前では歌いにくい」という理由から、宮古民謡の歌い手で研究家の古堅宗雄氏らが改作して世に出したのが現在の「なりやまあやぐ」なのだそうです。

元歌を伝承してきた島田文雄氏らによると、「なりやま」とは「ナズブリヤマ」と呼ばれた歌のうまい男性の名前だったとのこと。それが伝承過程で、

ナズブリヤマ → ナリビラヤマ → ナリヤマ

へと変化して、その変化した最後の「なりやま」を馴れた山という新しい解釈と意味づけがなされたということだそうです。

元歌は7番まで掲載されています。関心のある方は『琉球列島 島唄紀行〈第2集〉』をご参照ください。

などと書いている場合ではないですね。コンクールは来週です!
ボタンちゃんが見ていますので、練習せねば!!

今日も最後までお読みくださりありがとうございました。