黒木棹の補修② ~割れを埋める

前記事「黒木棹の補修① ~自分で補修したワケ」からの続きです。

さて、割れと傷だらけの黒木棹、まずは割れ目や穴を埋めていかなくてはなりません。
沖縄の伝統的家屋は漆喰で屋根瓦の隙間を埋めますが、三線の場合は別のもので埋めます(笑)

※以下は私の知識の範囲内での記事になります。お気づきの点がありましたらご指導くださいますようお願いします。

割れを埋める方法

棹材の割れ目を埋める方法としては、次の二通りの方法があります。

  1. 刻苧(こくそ)で埋める
  2. 黒木の粉を埋めて瞬間接着剤で固める

刻苧(こくそ)とは、糊と漆を混ぜ、その中に黒木の粉を混ぜ込んだ天然のパテです。
古来から行われてきた方法で、三線の棹だけではなく、漆工芸の世界でも繋ぎ目の補強や隙間を埋める手法として行われています。
ただし、漆の硬化に時間がかかるうえ、少しずつ塗り重ねて埋めていかなければならず、とにかく時間がかかります。

一方の黒木の粉&瞬間接着剤については、なんといっても時間がかからずに済みます。なにせ「瞬間」接着剤を使うのですから、刻苧に比べてはるかに早いし簡単です。
現在は三線製作の現場では瞬間接着剤を用いる方法が一般的になっています。

当時の私は迷わず刻苧を使用する方法を選びました。
最終的に漆塗りで仕上げようと思っていたので、漆工芸の手法に準拠すべきと思ったのです。それと、当時の私は、瞬間接着剤を使う方法が三線製作でスタンダードになっているとは思っていませんでした。使っていたとしても、普及品だけだろうと考えていたんです。
というのも、瞬間接着剤は固まるとガラス状になります。あれだけ棹の材質にこだわっているのに、補修のためとはいえ、異質なもので固められると音色に影響があるのでは?と思ったからです。※音色に影響があるかどうかは未検証です。

現在は認識をあらためて、瞬間接着剤を使っています。この補修作業を終えてから「三線職人塾」に入り、現在の三線製作の現場で瞬間接着剤が不可欠であることを体感したからです。※瞬間接着剤については、またあらためて。
ということ前提で、刻苧については参考記事としてお読みくださいませ。

刻苧を作る

話は刻苧に戻ります。とにかく面倒なので、早く補修したい方は参考程度に留めてください(苦笑)

刻苧は市販していないので、まずは自分で作らなくてはなりません。

①飯粒を練って糊を作る
②糊に漆を混ぜて糊漆にする(糊:漆=1:1)
③糊漆に黒木の粉を少しずつ混ぜて練っていく(糊漆:黒木粉=1:1)

④完成

黒木の粉とは、黒木を削った時に出る大鋸屑です。
黒木用、シラタ部分用など、大鋸屑の色別に保管しておくと便利です。

木地固めをしておく

刻苧で埋める前に、棹全体をテレピン油で薄めた生漆で拭いておくと良いでしょう。
刻苧を乾燥させるには、湿度の高い漆室に入れるのですが、何も塗っていない生木の部分が露出していると、漆室の中と外の環境変化の影響で、思わぬ場所に割れや捻りが生じる可能性があるからです。

生漆とテレピン油は1:1で良いと思います。
室に入れる前に棹全体にこれを塗り、浸み込んだら、乾いた柔らかい布やキッチンペーパーでムラが残らないように拭きあげます。
1~2日漆室(※後述)で乾燥させれば、木地固め完了です。

割れ目を埋めていく

刻苧ができたら、少しずつ割れ目を埋めていきます。
浅い傷なら良いのですが、深い傷は少しずつ。そうですね、1回数mmの厚さまでにして、しっかり乾燥した後に重ねていきます。
いきなり厚く埋めてしまうと、乾燥するのにとてつもなく時間がかかるのと、乾燥にムラが出て、表面に皺がよってしまうからです。
それと、最後の埋め段階では、表面を少し盛り上げます。乾燥すると刻苧が縮むからで、縮む分を見越して刻苧を盛るわけです。

残った刻苧は次の重ね埋め用に保管します。
ラップに包んでからジップ袋に入れ、冷蔵庫で保管すると1週間以上もちます。

乾燥(硬化)

一度埋めたら乾燥です。
乾燥といっても、一般的にイメージする「乾燥」とは逆のことをやります。
漆の乾燥は、漆液中のラッカーゼ酵素が空気中の水分から酸素を取り込み、ウルシオールを酸化重合させて硬化するものです。このため、適当な湿度と酸化重合するための温度が必要となります。漆が硬化するためには、温度20℃~30℃、湿度65%~80%が適しているといわれています。
この環境下に最低でも2~3日置いておきます。
乾いたらまた刻苧を埋めて乾燥。割れが埋まるまでこの工程を繰り返します。
ちなみに、残った刻苧を冷蔵庫で保管できるのは、硬化条件と逆の環境下(低温・低湿度)だからです。

通常は漆室といわれる湿度と温度を保つ部屋や戸棚で乾燥させるのですが、一般宅にそんなものあるわけありません。
私の場合、前回漆塗り初チャレンジしたときに簡易な漆室を自作しておりました。

三線が届いたときの段ボール箱の内側にビニールシートを貼りました。底には濡れたタオルをトレイに載せて置き、針金ハンガーで濡れタオルを内側に垂らすことで、湿度を確保します。
温湿度計を購入して、センサーを室の中に固定。これで漆室内部の温度と湿度を管理できます。冬場はヒーターを使用して温度を上げています。
これにどうやって三線の棹を安置するかというと、上蓋に三線の心を通して大型クリップで固定し、チマグから先だけを中に吊るす仕掛けです。

漆塗りをやろうとした時「自分でそんなことできるわけない」と言っていた妻は、この漆室を見て諦めてくれました(笑)

整形する

埋めた刻苧が完全に乾いたら、はみ出た刻苧や本来の面より出っ張った部分を削って整形します。
最初は60~80番くらいのサンドペーパーで。番手を細かくしていき、この段階での仕上げは180番くらいで良いと思います。

私の場合、チラの部分の傷がかなり深かったので、5回くらいに分けて埋めました。
埋める作業だけで3週間位かかったでしょうか。
とにかく気の長い作業です。

ええ、まぁ。。。

(続く)

今日も最後まで読んでくださりありがとうございました!
次は漆塗りの工程です。