三線の型を選ぶ前に知っておいてほしいこと
三線を分類する場合、まずは「型」で分類することができます。もう一つは、棹に使われている木の種類による分類もあります。
今回は「型」について書いていこうと思います。
三線の型について考えるときというと、だいたい次のようなシチュエーションではないでしょうか。
- 三線を始めてしばらく経って三線には「型」があると聞き、自分の三線の型が気になったとき
- 2挺目、3挺目の三線を買おうと目論んでいるとき
1.の場合、貴方の三線は90%以上の確率で「真壁型」だと思われます。後段に書きますが、現在流通している三線の多くが真壁型の三線です。特に初心者用といわれる三線の場合はほとんどが真壁型ですね。
10%の余地を残したのは、他の方から三線を譲り受けて始めている場合があるでしょうし、店舗オリジナル三線などの場合、独自の進化を遂げた三線になっている場合があるためです。(参照記事:初めて買う三線を考える)
実際、私が購入したことのある「オリジナル三線」は、真壁と与那城を足して2で割ったような形でした。
2.の場合は悩みますよね~。といっても楽しい悩みだとは思いますが。
この記事の情報が型選びの参考になると嬉しいです。
まずは三線の型について確認したいと思います。
既にご存知の方はすっ飛ばしてくださいね。
三線は7つの型に大別されます
型とは、主として棹の形状の違いによるもので、7つの型に大別されます。
厳密にはチーガの厚み等も型によって違いがあるようですが、現代は専ら棹の形状によって型が区別されているようです。
「歴史資料調査報告書Ⅶ 沖縄の三線」(1993年3月 沖縄県教育委員会発行)を参考にしてかんたんに記しますね。順番は、その型が現れた時代の順にしています。
※「歴史資料調査報告書Ⅶ 沖縄の三線」について:
沖縄県内に現存(1993年当時)する古三線を調査し採録した資料。琉球王府時代から太平洋戦争前の昭和初期までに作られた三線 計612挺が写真と解説付きで掲載されているという、モノスゴイ資料です。
南風原型(ふぇーばるがた)
最も古い型といわれています。
南風原という名称は、三線作りの名工<南風原>の名に由来すると『球陽』(琉球王国の正史として編纂された歴史書)の1710年の記事にあります。
棹は細目で、天の曲がりが少なく、野坂は大きく曲がり、野丸は半円形です。野丸と鳩胸の区別がほとんどできません。
この型は、拝領南風原型と翁長親雲上型の2種類があります。
知念大工型(ちねんでーくがた)
1710年、三絃匠主取に任命された<知念>の作といわれています。
棹は太く、天の曲がりは大きく、中央にかすかに盛りあがった稜線があります。また天面も広いです。
天と鳩胸は盛りあがっており、野坂は丸みをおびています。野丸から鳩胸にかけて、中央には天面同様かすかに稜線があります。
久場春殿型(くばしゅんでんがた)
<久場春殿>の作といわれています。南風原型の系統です。
沖縄の三線のなかでも、もっとも棹が太いのが特徴です。
天の曲がりは小さく、薄手です。棹は上部から下方へ次第に太くなり、野丸と鳩胸の区別がほとんどできません。
心のつけ根には、階段(一段)がほどこされています。
久場の骨型(くばぬふにがた)
<久場春殿>の作といわれています。
棹がもっとも細く、久場春殿型とは対照的です。南風原型をひと回り小さくしたような感じです。
野丸と鳩胸の区別がほとんどできません。
棹を横から見ると、クバ(ビロウ)の葉柄に似ているところから、この名がつきました。
真壁型(まかびがた)
名工といわれた<真壁>の作といわれています。
棹は細目です。天は中弦から曲がり、糸蔵が短くなっています。
三線の型のなかで、もっとも優美といわれています。
真壁作の名器は「開鐘(けーじょー)」と呼ばれます。
平仲知念型(ひらなかちねんがた)
<知念>の弟子<平仲>の作といわれています。
棹は細目ですが、鳩胸には丸味がありません。
天はわん曲が大きく、中央はやや盛りあがっていて、丸味をおびています。『沖縄の三線』では、「この型の存在を今後検討する必要がある」としています。
与那城型(よなぐしくがた)
<真壁>と同時代の人だといわれる<与那城>の作と伝えられています。通常「ユナー(与那)型」と称しています。
棹は太目です。野面が糸蔵の端まで一直線です。天は糸蔵の先から曲がり、範穴はやや下方に開けられています。糸蔵は長く、鳩胸も大き目です。
この型はさらに、小与那型、江戸与那型、佐久川の与那型、鴨口与那型の四つがあります。江戸与那の心の側面には大小三つの穴が穿てあります。
ポピュラーな型
『沖縄の三線』に採録されている三線を型別にみると、次のようになります。(※1)
南風原型 10挺 (1.6%)
知念大工型 19挺 (3.1%)
久場春殿型 8挺 (1.3%)
久場の骨型 13挺 (2.1%)
真壁型 341挺 (55.7%)
平仲知念型 10挺 (1.6%)
与那城型 191挺 (31.2%)
真壁型が半数を超えていて、次いで与那城型が多い結果となっています。時代別では、明治期は与那城型が比較的好まれ、大正期以降は真壁型が隆盛となっているようです。
現在も真壁型の流通が圧倒的に多いですね。三線店で「三線をみせてください」というと、だいたい真壁型が出されます。
古典の世界では与那城型を好まれる人が多いとききます。それ以外の型に関しては、かなりマニアックな世界になるでしょうか。
私が最初に入手した三線も真壁型でした。現在所有しているのは、写真の真壁型と与那城型です。
真壁型が多い背景については、こちらの記事(真壁型の三線が多い理由)を参照してください。
※1)『沖縄の三線』に記録された沖縄三線の統計的特徴(沖縄国際大学 又吉光邦教授)より
三線の型も進化する?
それぞれの型の特徴については先に書きましたが、『沖縄の三線』に採録されている三線をみても、すべてがその特徴通りになっているわけではないようです。
例えば、天は真壁でありながらそれ以外はユナー、というようなケースです。『沖縄の三線』にある612挺のうち、2割弱が複数の型を取り入れた形になっているとのこと。
いわゆる「ちゃんぷるー」ってことなのでしょうか。
同じ型でも、三線を製作する作者の方によって特徴があったりもします。同じ真壁でも天の反り方が違っていたり、野坂が丸かったり平坦だったり、ホント、色々ですね。
また、現代においても新たな型に取り組む工房もあるようです。
マテーシ千鳥(又吉真栄氏)やいーばる型(上原正男氏)などがありますね。
以前、沖縄の津波恒英先生から、天が700系新幹線(カモノハシ型)の形をした三線を見せていただいたことがあります。お知り合いの職人の方が製作されたとのことでした。
工匠達が音色を探求した結果として、型も進化し続けているのかもしれません。
で、どの型を選ぶ?
これは目的にもよりますが、ご自身で演奏を楽しむ分には「好きになった型を選ぶ」のが良さそうです。
前項で書いたように、三線の型も進化していて、複数の型の特徴を兼ね備えた三線も増えてきていますし、これからもその傾向が強くなる気がします。
型によって音色が異なる、という考えもありますね。確かに、ユナーなら太目が基本ですからずっしりした音色になりやすいですし、真壁は細目なので比較的軽く澄んだ音色になりやすいと思われます。
しかしながら、音色はチーガの張りによる影響の方が大きいです。まったく同じ条件のチーガで、棹だけ違うものを比較しない限り、棹の違いによる音色の比較は正確にできないでしょう。
また、棹の材質でも音色は変わってきます。
さらに言うと、オーダーして太目に仕上げてもらえば真壁でも重厚感のある音色になってきますし、細めのユナーにすれば音色は軽くなります。
なので、型のことだけで言うなら「好きな型を選ぶ」というのが私の考えです。
ちなみに、材質の違いや型の違いによって聴く人がどう感じるかを実験した資料が手元にあります。沖縄県立博物館の協力の下、師範クラスの人のグループと一般の人のグループに分けて「どの音が上等か?」を答えてもらったものです。
興味深いので、機会をあらためてご紹介しますね。
コレクターの方や「純粋な真壁が欲しい」という方は、型の特徴を忠実に再現して製作してもらうか、中古市場で目的に適うものを探すと良いですね。
そういうのってすごく楽しそうです。
●
ということで、三線の型についてツラツラと書いてきました。
詰まるところ、型で選ぶというよりは、自分が惚れた三線を選ぶのが一番だと思います。
最後までお読みいただきありがとうございます!
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません